第4話準備編<<戻る>>第5話準備編

シャドウランリプレイ 影駆ける戦鬼 第4話セッション編



 出入り口のドアを押し開くと、電子的なチャイムの音が軽快に鳴り響き、彼女を迎え入れる。
 店内を見回す。様々な商品の並んだ陳列棚、自動レジ、各種手続き用の端末。何の変哲も無い、普通のコンビニエンスストアだ。

 しかし、初めて訪れた者は、この場所を極めて異様だと思うだろう。
 何故なら、ここがかつての企業間抗争の主戦場となった場所であり、瓦礫の転がる道路と廃墟に囲まれた場所に建っているからである。

 池袋。企業間抗争の戦禍が未だに癒えぬ街。
 ヤクザやギャングが往来を闊歩し、不法居住者や路上生活者が物陰で蠢く、犯罪と無軌道な暴力の街。
 行政も警察もその権能を及ぼし得ぬ無法の地域に、その店舗は存在した。

凰雅(舞) 何でコンビニにしたのよ。こういう話って、酒場とかで密談するのが普通でしょ。

GM(P) いやあ、シノギでコンビニ経営するヤクザって話を聞いて、ちょっと取り入れてみたいな、と。

視以亜(玲子) まあ、そういうのは別に自由にして貰って良いけど。
 それより状況を教えて。話を貰ったときに、接触の手順を示し合わせている筈でしょう?

GM はい。このコンビニに着いたら、店員に架空の業者を名乗って、取り次いで貰う事になっています。

「いらっしゃいませ」
 眠たげな顔で挨拶をしながら、すれ違うべく通路の脇に寄る店員。その前で立ち止まり、口を開く。

「お世話になります。諏訪戸商事です」

 その瞬間、店員の寝ぼけまなこに緊張の光が走る。一瞬且つごく僅かのものであったが、それを見逃す様な彼女ではない。
 一礼し、奥へと下がる店員。正しい接触手順を踏んだ事を認識し、彼女は手振りで合図を出す。店内を歩く2人の『仲間』がそれに気付き、彼女の方へと集まる。

「お待たせ致しました。視以亜さん、お仲間の皆さん。組長がお待ちです」
 店内に戻り、彼女達を奥へと招く店員の声。今夜も、『仕事』の話が始まる。

 彼女の名は『視以亜(シイア)』。
 卓越した捜査技術と広い人脈で情報の売買を手掛ける、裏社会の探偵。それが、シャドウランナーとしての彼女の姿である。

凰雅(舞) いよいよ、ヤクザの親分と御対面って訳ね。

マール(まなみ) ど、どういう人なんでしょう……。私達は、何か知っていますか?

GM そうですね。その事ですが……。尾崎さん、コンタクトのヤクザボスですけど、こっちである程度設定を決めて構いませんか?

視以亜(玲子) ええ。こっちはキャラクターを作ったばっかりで何も決めてないもの。任せるわ。

GM 助かります。では、ひとまず進めましょう。実際に描写しながらの方が、伝わり易いでしょうから。



 店舗の奥の、簡素な休憩室。2枚並びの長机の向こう側に、その人物はいた。
「お久しぶりです。『弩明田(ドミョウダ)』さん」
 視以亜が一礼すると、その人物、弩明田は椅子から立ち上がり、笑みを浮かべて会釈する。
「よくおいでなさいました。どうぞ、掛けて下さい」

 高級なスーツに身を包んだ、精悍な印象の男。上品なオーデコロンの香りが、微かに鼻腔をくすぐる。
 席を勧める仕草も洗練されたもので、まるで一流の会社員の様な佇まいさえ見せる。

 だが、彼は会社員ではない。彼こそが、この一帯を勢力下に置くヤクザ『弩明田組』の組長なのであった。

 視以亜は、目の前にいる依頼人に関する情報を脳裏に呼び起こす。
 弩明田組。池袋のヤクザの中でも最大の勢力を誇る『姉川組』の系列に属するヤクザ組織。
 姉川組のヤクザはやけに折り目正しい振る舞いが特徴で、幹部は上等なスーツに身を包み、笑みを絶やさず穏やかな印象を与える。
 弩明田はまさにその典型とも言える人物だと、視以亜は改めてそう思った。

GM 弩明田は元々姉川組の幹部で、姉川組の親分から独立を許されて自分の組を立ち上げました。暖簾分け、とでも言ったら良いでしょうかね。

マール(まなみ) ヤクザの幹部が、そのまま偉くなって自分の組を作って組長になった、っていう事ですか?

GM そうですね。今ここであまり複雑な設定を作っても扱い切れませんし。簡潔な設定にしておきましょう。
 視以亜の知る限り、独立は穏便に行われました。親組織である姉川組、それから同じ系列の兄弟組織との関係にも、特に目立った問題は無いようです。

視以亜(玲子) 成る程ね。了解したわ。じゃあ、まずは席に着きましょうか。

 視以亜は促されるままに着席し、凰雅とマールもそれに倣う。最後に弩明田も元の席に座り直し、シャドウランナー達と対面した。

 弩明田の後ろで左右に控える屈強な男と細身の男が、弩明田と対面する来訪者達に注意を払う。
 視以亜達は知っている。彼等が弩明田の護衛を務める腕利きのサムライとメイジである事を。

凰雅(舞) しっかり警戒されているみたいね。これは流石に、大人しく話を聞いてた方が良さそうかしら。

視以亜(玲子) 是非ともそうして下さい……。

GM では、席に着いた皆さんに、弩明田は依頼の話を始めます。

「実はうちのシマで、少々奇妙な事が起こっていましてね。シマに住み付いている連中が、立て続けに姿を消しているんですよ」

 話を切り出す弩明田に、3人はそれぞれ怪訝な表情を浮かべる。
 この周囲は放棄された破壊跡の地域だ。多くの『住人』は、点々と存在する『原型をある程度以上保った廃墟』に潜り込み、どうにかその日を過ごしている。
 彼等がちょっとした都合で放浪を余儀なくされてしまうのは、ストリートに通じた人間なら常識であり、それを『奇妙な事』と評する弩明田に疑問を持つのは当然だ。

「ええ、皆さんの言いたい事は分かります。この辺にいるのは、同じ場所に居続ける方が不思議な連中ばかりですからね」
 薄く笑いながら言葉を継ぐ弩明田。シャドウランナー達のその疑問は、当然ながら彼にとっても自明の理だ。

「しかしながら……。今朝、道路の真ん中に派手な血溜まりが出来ていまして。どうもいなくなった連中は無事ではないらしい。
 死体が無かったので便宜上『姿を消した』と先程は言いましたが……。まあ間違いなく、殺されたんでしょうな。それも、惨たらしく……」
 凄惨な事件をとつとつと語る弩明田に感情の揺れは見られず、冷静そのものだった。
「シマの連中に話を聞いてみた所、どうやら他にも何人か不自然な消え方をしているらしい。という結論になりましてね。
 こうしてご足労頂いた、という次第です。ここまでは宜しいですか?」

視以亜(玲子) 今って何時なの?

GM そうですね。午後5時としましょうか。不法居住者がいなくなった事に『事件』を見るのは難しいでしょうし、時間も掛かるでしょう。

凰雅(舞) むしろその日の内に依頼を出している辺り、フットワークが軽いわね。

「依頼内容は近辺住人の失踪事件……実質上殺害事件となりますが……原因の調査、及び排除。
 報酬はお1人につき5,000新円。引き受けて頂ければ、その内の2,000新円を前金としてこの場で。残りの3,000新円は成功報酬としてお支払いしましょう」
 必要事項を述べ終え、視以亜の方に目を向ける弩明田。一旦言葉を切り、そして、言い添える。
「……私からは以上です。如何でしょうか?」
 弩明田は口を閉じ、シャドウランナー達に目を向けたまま静止した。その目は雄弁に語っている。返事を聞く前に提供出来る情報はここまでだ。と。
 視以亜は横に座る仲間達と目配せし、そして、口を開く。

「依頼内容は了解しました。引き受けさせて頂きます」

「有難うございます」
 弩明田は笑みを浮かべて礼を言うと、スーツの懐に手を入れ、引き抜く。その手には、1本のクレッドスティックが握られていた。

「申し訳ございませんが、前金分のクレッドスティックを用意する時間が無くて……。どなたか受け取って貰えますか」
「ええ。かしこまりました」
 視以亜はクレッドスティックを取り出し、弩明田の持つそれと先端同士を接触させた。
 液晶に表示される6,000新円の額面。それを確認し、取引を確定させる。
 弩明田も同じ操作を行う事で、取引が成立。視以亜のクレッドスティックに前金が送金された。

GM 前金は後で分配したという事で、皆さん2,000新円ずつ受け取っておいて下さい。

「それにしても、こんな早い段階で動くなんて、コンビニなんか経営しているだけあってマメな事ねえ」
 依頼の成立を見届けた凰雅が冗談めかして口を挟む。後ろに立つサムライが微かに顔を顰めたが、当の弩明田は笑みを崩さぬままだ。
「何しろ、路地裏の隅々まで見回しながら生活している連中です。ときに思わぬものを見ている事もあるものでしてね。
 なかなかどうして、無碍には出来ないものですよ」
 弩明田はそう応え、依頼の意図を問う凰雅に対し、妥当な理由のある依頼である事を主張した。

「では、もう少し詳しくお話を聞かせて下さい。そちらが現時点までで調べた事について」
 視以亜が口を開き、話を仕事に戻す。
 ここからは情報収集の段階。裏社会の探偵・視以亜のシャドウランが始まる。



GM では、依頼を請けた皆さんに情報を提供し、弩明田はコンビニを後にします。
 得られた情報は、『今朝の事件現場』『不法居住者の溜まり場』です。まずはこの2つを手掛かりに、調査を行う事が出来ます。

凰雅(舞) 周りの人達に聞き込みをしながら現場を調査しろって事ね。私達に依頼する前に分かった事とかは無いのかしら?

GM 残念ながら、その時点では不審な失踪者を確認する事を主に行っていたので、事件としての調査はまだです。
 なので、事件としての調査を前提に、再度聞き込みすれば違った情報が得られる可能性があります。

マール(まなみ) ……あっ。ひとつ聞きたいんですが、『事件現場』って1つだけなんですか? これまでに何人かいなくなっているから事件と思ったんですよね?

GM 今の所、挙げられた現場は1つだけです。
 何しろ、治安も安全性もおぼつかない地域ですから、路上強盗や通り魔や野犬に襲われる事はありますし、血痕自体はどこにあっても不自然ではありません。

視以亜(玲子) 連続して起こっているから気になって依頼しているだけで、元々そういう出来事は日常的って事ね……。
 さて、どうしようかしら。今の所、現場に行くか聞き込みをするか、2つに1つよね。

マール(まなみ) んー……。聞き込みからにしませんか? 今の段階で分かっている現場は1つだけですけど、事件はほぼ間違いなく複数なんですよね?
 聞き込みをして行ったら、違う事件現場も見付かるかも知れませんし、情報が得られれば、現場で見えるものも変わって来るかも知れません。

凰雅(舞) 逆に言うと、事件現場で情報を得られれば核心を突く質問が出来るかも知れないけど……。
 でも、調査箇所が増えるかも知れないってのは一理あるわね。聞き込みからって事で、良いんじゃない?

視以亜(玲子) そうですね。じゃあ、まずは『不法居住者の溜まり場』に行く事にしましょう。

GM はい。では、聞き込みから始めるという話になった皆さんに、コンビニの店員が話し掛けて来ます。
「この辺の住人も不安に思っていますから、事件の解決は誰しも願っています。
 空き地でたむろっている奴らなら、酒でも持って行って警戒を解けば、知っている事は惜しみ無く喋ると思いますよ」

マール(まなみ) それもそうですね。自分達が危険に晒されている訳ですし。

視以亜(玲子) あとは、私達自身が信用を得れば良い訳ね。

GM 店員は頷いた後、店内を指し示します。
「酒もつまみも、うちに大抵のものが揃っています、さあ、どうぞお好きなものをお買い上げ下さい」

凰雅(舞) 仕事熱心ねえ……。

 仕事の話を終えた視以亜達は、コンビニの店内に戻り、酒類の陳列された棚に目を走らせる。

 まず、最初に目に入ったスペースに置かれているのは、2リットルペットボトル入りの酒の数々。前面のデジタルパネルには、2新円から3新円の値段表示が映っている。
 その種類はそこそこあるが、大別すると『大量の胡乱な添加物で味付けされた酒』と『ろくに味付けされていない酒』の2種類に分けられる。
 頭痛を伴う悪酔いを覚悟で酒を味わうか、それを避けて味気ないアルコール水を摂取するか。
 酒飲みの不法居住者は、そのどちらかを選ぶ事によって、生活範囲内での日常的な飲酒が実現出来ると言う訳だ。
「消毒に使えそうね。医療キットに入れておく?」
「要りません」
 酒と呼ぶのも憚られるアルコール水溶液のボトルを取り、原材料と成分を見て苦笑を漏らす凰雅。
 その冗談口に一言応え、視以亜は次のスペースに目を向けた。

 次のスペースには、500mlの缶や瓶が並んでおり、値段は殆どが3新円から4新円。
 常識の範囲内での添加物によって味付けされたアルコール飲料。バラエティ豊かな銘柄の酒類が置いてある。
 まともな都市部の労働者やフリーターなどの層に好まれる、各メーカーの主力商品が目白押しだ。
「この辺りはたまに飲むわ。これとか、なかなか良く出来てるのよねえ」
 凰雅が手近な合成ビールの缶を手に取って呟く。大きく書かれた『天然農産物100%使用』の文字を横目に見て、視以亜は更に隣へと目を向けた。

 5新円、6新円と言った値段表示がされた350ml缶入りのビールやワンカップ酒。このような場所のコンビニには似つかわしくない『本物の』酒類が並ぶ。
 治安の良い地域で大企業の会社員達が選ぶ様なラインナップの品々。弩明田組の組員辺りに向けた商品だろうか。
 何にしても、不法居住者の群れに配るには、コストパフォーマンスが悪すぎて向いてない。視以亜は視線を元に戻した。

「この辺りから、買っておきましょうか」
 視以亜は、500ml缶入りの合成酒に手を伸ばし、次々とカゴの中へと運び込んで行った。

GM 聞き込みの為に酒を買うんでしたら、店内で不自由無く購入出来るでしょう。
 では大きく分けて『不法居住レベル』『下層レベル』『中流レベル』の3つから選んで購入できますが、どうしますか?

マール(まなみ) 高いお酒を買ってあげた方が良いんでしょうか……。でも、大人数の不法居住者の人達に行き渡るくらい買う必要があるんですよね……。

視以亜(玲子) 下層レベルのお酒を買い込む、で良いんじゃないかしら? あまり高級過ぎても変に勘繰られて警戒させるかも知れないし。

GM では、下層レベルの酒を買い込んで聞き込み開始ですね。……んー。『中流』の凰雅がいるので、生活費に込みで良いです。所持金を減らす必要はありません。

凰雅(舞) あら、気前が良いわね。じゃあ、私が払った事にしておくわ。

 酒と雑多な食品を詰め込んだカゴを視以亜から受け取り、凰雅はレジ前に立った。
 ボックス型のリーダーにカゴを置くと、カゴの中にある商品のタグが瞬時に全て読み取られ、ディスプレイに金額が表示される。
 クレッドスティックをレジのスロットに差し込み液晶画面をタップすると、代金が引き落とされ、買い物が完了した。

「まずはこれで良し、って所ね。ねえ、あと何かおススメは無い?」
 袋詰めにされた商品を手に店員を呼ぶ凰雅と、小走りで駆け寄る店員。
 それらの光景に何とは無しに目を向けながら、視以亜は調査方法や話の運び方に思いを巡らせ、差し当たっての方針を考えていた。



「まずは、聞き込みからね」
 コンビニ前の駐車場。隅に置かれたベンチの脇で、視以亜は切り出した。
 手に持ったホットソイカフのカップに口を付ける。
 大豆を原料にして模倣されたコーヒーの風味。比較的よく再現された出来の良い苦みと香りを味わい、言葉を続ける。
「さっきもマールさんが言った通り、事件の内容が不明確。何の事件が何件起こっているのか、把握する必要があるわ」

「そうですね。今の状況では、何を突き止めれば解決になるのか、はっきり分かりません」
 ベンチに座っているマールが、両手で抱える様にして齧っていた合成チョコレートドーナツから口を離し、賛意を表した。
 人気商品との事で店員に勧められたが、それは単に効率良く飢えを凌げる食品として不法居住者に好まれているというだけな気がしなくもない。
「だから、まず聞く事は、最近出来た不審な痕跡が無いか。あとは、事件に遭って助かった人がいないか、でしょうか」
 マールは宙を見ながら考えを纏める様に呟き、それから脇に置いた合成ブレンド茶のペットボトルを手に取って一口流し込む。
 多種の香料と調味添加物によって雑然と分布する味と香り。唯一の天然素材である焙煎大麦が風味を纏め、茶としての体裁を辛うじて保っていた。

「まあ、調査に関しては、あなたに従うわ」
 視以亜から見てマールの向こう側。マールと並んで座っている凰雅が口を挟み、缶入りの合成ビールを煽る。
 喉を鳴らして一息つくと、凰雅は上体を屈め、マールの前方から視以亜に向けてウィンクした。
「腕を振るうにも相手が分からない事にはね。期待しているわよ」
「ええ。いざというときには、こちらも頼りにしてますよ」
 視以亜は微苦笑と共にそれに応える。凰雅は返答を待つ事無く視以亜から視線を外し、ソイチキンの唐揚げを摘まんでいる所だった。

「……それじゃあ、当たってみましょうか」
 視以亜はカップを傾け、湯気の弱まったソイカフを一気に飲み干した。



GM では、不法居住者への聞き込みを始めるという事で構いませんね?
 皆さんはそれぞれ車とバイクに乗り、先程教えられた不法居住者の溜まり場にやって来ました。
 瓦礫を押し退けて作られた様なちょっとした空き地に、えーっと、(コロコロ)8人ほどの人達が集まり、焚き火を囲んでいる様です。

視以亜(玲子) コンビニ袋を提げて輪に入りましょう。

GM はい。では、不法居住者の群れに馴染めるかどうか、『礼儀作法(ストリート)』でテストしてみましょう。
 手土産を持って来ていますし、目標値は3とします。

凰雅(舞)(コロコロ)2個成功。

マール(まなみ)(コロコロ)私も2個成功です。

視以亜(玲子)(コロコロ)……イマイチな出目ね。まあ、それでも2個成功よ。

GM オッケーです。不法居住者達は、警戒を解いて皆さんの話を聞く状態になりました。
「ヤクザの人達も聞き回っていたが、ヤバい事件なのかい? あんた達、何とかしてくれよ」と言った感じで、不安感を滲ませた様子です。

視以亜(玲子) じゃあまず、「誰が死ん……いなくなったのか分かるかしら? あなたたちが知っている人?」と訊いてみましょう。
 事前に組員が聞き込みした事と、内容が一致するかしら?

GM では、最近の1週間ほどで、死因や行き先がハッキリしない失踪者が10人ほど発生している事が分かります。
 如何に治安が悪いとは言えこのペースは異常だと、不法居住者達は感想を述べますね。

凰雅(舞) 1日1人以上のペースね。しかも、死因がハッキリしてる死人は別にいるんでしょ?

GM ええ。野犬に襲われたとか、食中毒とか、廃墟が崩れて下敷きになったとか。今回の事件とは関係無さそうな死因ですね。

マール(まなみ) でも、それを差し引いても今回の事件で複数の被害者が出ているのは間違いないみたいですね。
 では、不法居住者の人達に、「今朝見付かった例の現場以外に、他の場所で何か物騒な痕跡はありませんでしたか?」と訊いてみます。

GM そうすると、不法居住者達は、数日前に幾つかの路地裏で、新しい血の跡があった事を告げます。
 情報収集の結果、『数日前の痕跡』の手掛かりを得る事が出来ました。

凰雅(舞) 血の跡……。確か最初の現場は『血溜まり』って表現しなかった?

GM ええ。今朝発生した事件現場では、倒れた人間が余裕で収まる程の大きさの『血溜まり』になっていました。
 不法居住者達が数日前に見たのは、それよりも小さな『血の跡』だそうです。数日前から見なくなった、原因不明の失踪者もいるようです。

視以亜(玲子) 現場の状況が違う……? ひとまず実際に見比べてみた方が良さそうね。



GM では、皆さんは不法居住者の溜まり場を離れ、事件現場へと向かう事にしました。
 ……あ、そうだ。皆さん、明かりはどうします? 用意していた事にして持っていても構いませんが。

マール(まなみ) 良いんですか? では、私が持っておきます。

「これね……」
 視以亜は瓦礫と粉塵の散乱したアスファルトの地面に視線を落とし、呟いた。
 照明に照らされたその場所には、大きな血溜まりの跡が拡がっている。人が3人か4人、並んで横になってもすっぽりと収まりそうな広さだ。
「随分と派手に汚したものじゃない。躾がなってないわねえ」
 凰雅がその有様を見回し、呆れたような溜息と共に呟く。
「……マールさん。ちょっとこっちに寄ってくれる?」
「はい。この辺りで良いですか?」
 照明を持ったマールが、近寄って視以亜の視界を照らす。

 上部に取っ手の付いたランタン型のフラッシュランプ。周囲がゴムでコーティングされ、地面に落としたくらいでは支障を来たさない程度の耐衝撃性を備えている。
 敵襲に対し咄嗟に照明を捨てて戦闘態勢に入っても壊れる事無く、向きに関わらず全周を照らす、信頼性に優れた代物だ。

「有難う。何かあるかしらね……」
 マールに一言応えつつ、視以亜は明るさを増した事件現場に目を凝らし、調査を開始した。

GM 現場は瓦礫やゴミで雑然としており、探し物はなかなか難しいように感じます。知力でテストして下さい。
 目標値は5。明かり無しだと『低光量』、明かりを点けると『部分光』になります。

視以亜(玲子) 明かりを点けてもらうわ。凰雅と視以亜が目標値6で、マールが目標値7。実質、みんな同じね。6の目を出した数だけ成功になるわ。

GM そうですね、では、どうぞ。

凰雅(舞)(コロコロ)あら……失敗ね。

マール(まなみ)(コロコロ)2個成功です。

視以亜(玲子)(コロコロ)3個成功。さて、何が分かるかしら?

GM ではまず、今朝の事件現場から。
 犠牲者が倒れた場所と思われる血溜まり以外にも、あちこちに血痕が残っており、非常に激しく争った様子が伺えます。
 皆さんは、犠牲者が複数人に囲まれた上で、何度も傷付けられて殺された様だと判断するでしょう。

視以亜(玲子) シャドウランナーでもなく、改造もしてない不法居住者なんでしょ?
 それを囲んで何度も攻撃を仕掛けたって事は、大して強い相手じゃないのかしら?

凰雅(舞) 犠牲者をいたぶるのが好きな悪趣味な相手かも知れないわよ?

視以亜(玲子) それならまず動けない様にすると思うんですよ。争った跡が広い範囲に残っているんでしょう?
 手際の悪い襲撃者が下手なやり方で犠牲者を殺した、っていうのが今の所しっくりくると思います。

凰雅(舞) ……成る程ね。そんな手際の悪い連中が、死体はきちんと片付けて行ったのね。

視以亜(玲子) そうなるんですよね……。引き摺った跡とか、どこかに血痕が続いているとかは無いの?

GM 特に見付けられません。まあ、血溜まりは人の大きさよりかなり大きいので、その範囲で動かした可能性はあります。
 それから、争った跡の中には血で付いた足跡らしきものもありますが、これも遠くには残っていません。
 何しろ地面は瓦礫の破片や粉塵で覆われていて、ビル風も吹き付けているので、痕跡は極めて残り難い状況です。

凰雅(舞) 足跡が追えないのは分かるけど、死体から落ちた血の跡も無いって事は、流石に死体をそのまま持って運んだ訳じゃなさそうね。

マール(まなみ) シートに包んだとか、袋に入れたとか……。とにかくこれ、人間……というか、その位の知能があるものの犯行ですよね?

視以亜(玲子) 多分ね……。じゃあ、次の現場を見ましょうか。

GM はい、では、不法居住者達から聞いた数日前の痕跡ですね。
 さっきの現場よりも明らかに血の量が少なく、瓦礫やゴミにかかった血はバラバラになってしまっているので、見付けるのに困難を極めました。
 話を聞いていなければ、ここで何か事件があったと気付くのは不可能に近かったでしょう。

マール(まなみ) 私達はそれを見て、事件現場だと判断出来たんですか?

GM はい。地面に付いている血痕の大きさから、致命傷かそれに準する負傷を、一撃で、負わせた事が伺えます。
 周囲に争った形跡は無く、あっという間に即死か、少なくとも無力化されたものと思われます。
 このような事件現場を、皆さんは2ヶ所ほど見て回りました。状況はよく似通っています。

凰雅(舞) こっちは腕の立つ襲撃者の犯行っぽいわね。

マール(まなみ) これって、同じ事件なんでしょうか。共通点は、死体が無いって事くらいですけど……。

視以亜(玲子) 手際が全く違うのに、丁寧に死体を持って行ってるって所だけ共通してるのは、むしろ関連性を感じるわね。
 ……シャドウランナーとしての知識で分かる事ってのはもう無いの? 似たような事件とか。

GM そうですね……。じゃあ、そろそろ、ディテクティブの持つ強力な武器を使ってみましょうか。
 関連性のある事件があるとするならば、視以亜の持つ『コンタクト』の中に、それに通じた人物がいるかも知れません。

視以亜(玲子) 成る程ね。低治安地域で事件を追ってそうなコンタクト……。
 私が持ち合わせている中では、『ストリートコップ』か『メディアプロデューサー』かしらね。
 ……じゃあ、『メディアプロデューサー』に連絡を取ってみるわ。



「はあい。元気?」
 ポケットセクレタリーの通話機能を使用した視以亜の耳に、コール音が1回。そして、陽気な女性の声が入って来た。
「残念だけど、今の所あなたに追って欲しい事件は無いわねえ。手元のニュースが盛り沢山なのよ」
「それは良かったわ。もしかして、私が今追っている事件も知っていたりするかしら?」
 先制して仕事の打診を切るメディアプロデューサーに、用件を伝える視以亜。
「ふうん? 聞かせてよ。どんなニュース?」
 情報を欲する視以亜に対し、興味ありげな声音を返す。話を聞く気配に軽く安堵し、視以亜は事件と依頼のあらましを語り始めた。

「池袋の……姉川組の縄張りね。行方不明事件……。悪いけど、そういう猟奇的な行方不明事件は、ちょっと前に流しちゃって食傷気味なの」
「そう……」
 芳しい反応は得られず、視以亜は溜め息交じりに相槌を打つ。
「ごめんなさいね、力になれなくて」
「気にしないで。ところで、そのちょっと前に流した行方不明事件ってどんなの?」
 謝罪の言葉を口にするメディアプロデューサーに対し、視以亜はなおも話を続ける。
 全く別の事件であっても、もしかしたら何かしらの共通点が存在し、解決の糸口になるかも知れない。

「ふふっ。なかなかセンセーショナルな出来に仕上がったのよ。渋谷で10日前に起こった連続ヴァンパイア発生事件。結構良い数字が取れたんだから」

「ヴァンパイア……!?」
「ごめんなさい、もう時間が無いわ。気になったら時間があるときに見てちょうだい。またね」
 意表を突く単語を鸚鵡返しにする視以亜を余所に、メディアプロデューサーは早口で別れを告げ、一方的に通話を終える。

 通話終了画面を眺め、しばし押し黙る視以亜。
 そして、ポケットセクレタリーのブラウザーを開き、ニュースネットへとアクセスする。

「何か分かりました……?」
「分からない……けど、何か分かる可能性はあるわ」
 マールの問い掛けに応えながら、視以亜はディスプレイに映し出されるニュース記事を注視していた。

凰雅(舞) ヴァンパイア……。また随分と唐突な単語が出て来たわね。今回の事件とも何か関係があるのかしら?

GM まずはヴァンパイアについて、一般的に知られている事をおさらいしましょう。
 その上で、ニュース記事の内容をお知らせしますので、それから考えて頂きましょうか。

ヴァンパイア:人間やメタヒューマンが、『人間メタヒューマン吸血鬼化ウィルス(HMHVV)』に感染したのちに死亡し、『復活』する事によって発生するクリッターです。
《エッセンス吸収》のパワーを持ち、無力化した犠牲者から吸血を行う事で、犠牲者のエッセンスを吸収する事が出来ます。
(エッセンスを吸収するのに『吸血』という行為が必要なのであって、血液自体はあまり重要ではありません)

 エッセンスを全て奪われた犠牲者は死亡し、ヴァンパイア(或いは《エッセンス吸収》のパワーを持つ他のクリッター)として『復活』します。

 一方で、時間と共にエッセンスが徐々に失われて行く《エッセンス喪失》の弱点も併せ持っており、生命活動を続ける為に他者からエッセンスを奪う必要があります。
 エッセンスが0になったヴァンパイアは狂暴化し、そのままエッセンスが吸収出来なければ数日以内に死亡します。

 視以亜の見付けたニュース記事は、渋谷の路地裏で、狂暴化したヴァンパイアが通行人を襲撃する事件が発生した所から始まっていた。

 ヴァンパイアが、生物から生命エネルギーを吸収して活動するクリッターである事。加えて、狂暴化の様子が、生命エネルギーの乏しいヴァンパイアの症状と一致する事。
 以上の点から、ESP渋谷分署では、彼等が『復活直後の』ヴァンパイアであり、彼等から生命エネルギーを奪った『犯人』のヴァンパイアがいるものと断定。
 捜査の末、1体の『犯人』を突き止め、追跡を行った。

『犯人』は、長剣とサブマシンガンを手にECP隊員数名を殺害し、包囲網を破って逃走。応援要請により出動したECP機械化部隊と激しい戦闘を繰り広げる。
 最終的に、『犯人』は大量の弾丸をその身に受けて致命傷を負い、マンホールから落下。死体は下水に流され、確認されていない。

凰雅(舞) どう考えても生きてて出て来る奴じゃないこれ。

マール(まなみ) 生身の警察では手に負えなくて、サイバーウェアで強化された警察が戦っているんですね。もの凄く強いって事でしょうか……。

 ニュース記事を最後まで読み終えた視以亜は、その下にある管理者用リンクに目を留めた。
 そこには、ニュース記事に使われた資料がまとめて保管されている事を、彼女は知っている。

 視以亜は画面をタップし、メディアプロデューサーから与えられた閲覧専用のアカウントで、アクセスを試みた。

GM では、パスワードを入力し、管理者用ページにアクセスしました。
 そこには、監視カメラが捉えた精度の悪い『犯人』の映像。あとは戦闘で犠牲になったECP隊員の死体の画像など。
 記事に使うには質の劣る、或いは難解だったり、少々刺激的で不適切な情報が雑多に収められていました。

視以亜(玲子) 当たり前だけど、気分の良いものではないみたいね。死体の画像から分かる事はある? 事件現場に共通している事とか。

GM そうですね。資料には『犯人』が、孤立したECP隊員からエッセンスを奪い殺害した事を示すものがありました。
 どうやら、『犯人』は不意を突いて一撃で致命傷を負わせ、犠牲者が苦痛と恐怖の中で死亡するまでの僅かな間に吸血を行い、エッセンスを吸収した様です。
 その資料には、「非常に手際の良い、熟練された手順である」というコメントが添えられていました。

マール(まなみ) 私達が見た事件現場の、血痕が少ない方と一致しますね。

GM なお、犠牲となったそのECP隊員は、葬儀中にヴァンパイア化しない様、首を切り離された状態で納棺されたと書かれています。

凰雅(舞) ……あー。そういう対応をするのね。

GM あともう1つ。書き込みの加えられた下水網の地図が添付されていました。
『犯人』が落下したマンホールの位置に印が付いており、そこから時間経過と共に予想範囲が広がっていますが、途中で打ち切られた様子が伺えます。
 ちなみにニュースサイトの方では、その1時間後に次のニュースがアップされていました。

マール(まなみ) 新しいニュースの方に取り掛かって、調査をやめちゃったんですね。

凰雅(舞) それは、何も無ければどんどん可能性が拡がってキリが無くなるだけだものね。さっさと新しい記事を書いた方が良いでしょ。

視以亜(玲子) そうですね。でも、事件を追っている私達にとっては、手掛かりに成り得ます。
 下水網の地図から、池袋の、現場の近くにあるマンホールか何かに繋がっている場所を見付ける事は出来る?

GM はい。その様にアタリを付けて調べると、これまで見て回った現場から少しだけ離れた場所で、条件に一致するマンホールが見付かりました。
 詳細は省きますが、あまり住環境が良くなく、不法居住者も好んで寄り付かない場所です。

凰雅(舞) ひと気の無い場所に隠れ住んで、夜な夜な外に出て来ては人を襲う、って所かしら?
 とにかく、行ってみましょうか。武器を構えて警戒しながら調べた方が良さそうね。

マール(まなみ) あっ、それなら、『都市精霊』を『召喚』しておきます。フォースは5にして、トーテム修正はドレイン抵抗テストに使いますね。
 召喚は(コロコロ)2個成功です。ドレインは(ザラザラ)ありません。

GM 準備は宜しいですか? では、場面を移しましょう。



「資料によると、この辺り……あれがそうね」
 愛車から降りて少し歩くと、そのマンホールは容易に見付かった。
「血に飢えたヴァンパイアが、ここから這い出て事件を引き起こしたって訳?」
「可能性としては、ですね」
 凰雅の問い掛けに応え、視以亜はチラリと目を向ける。
 バイクから降りた凰雅は、愛銃『アレスプレデター』と、新調したナイフをそれぞれ構え、周囲を警戒していた。

「手掛かりが見付かれば良いんですが……。あっ」
 視以亜の後に続いて車から降り、ランプの光を揺らしながら歩み寄ってきたマール。何かを思い付いたように声を上げる。
「申し訳ありませんが。こちらに出て来て待っていて頂けますか?」
 あらぬ方向を見て声かけをするマール。突如、マールの視線の先から気配が生まれる。

『それ』は、空容器やプラスチック片、ガラクタ等が寄り集まった姿をしていた。だが奇妙な事に、それはひとりでに動き、道の隅で座り込む様に、ひっそりと転がった。
 ポイ捨てされ追いやられたゴミに擬態し、路地裏の風景に溶け込んだ『それ』。その正体は、マールの召喚した『都市精霊』である。

GM マールは都市精霊を待機させ、凰雅が周囲の警戒。視以亜が調査を行う訳ですね。
 ……それでは、凰雅は知力テストをお願いします。目標値4……いや、3で良いです。『部分光』の修正を加えて4ですね。

凰雅(舞)(コロコロ)4個成功。随分簡単なテストね。

GM ええ。目で見なくても分かる情報が色々ありますから。
 凰雅は、足音を聞きました。忍ぶ様子の無い不躾な足音。堂々と現れる人影。そして……。腐肉のような異臭を微かに感知します。

 闇の中に銃を向けた凰雅に「どうしたのか」と訊く前に、視以亜とマールも状況を察知し、構える。

 前後からそれぞれ複数の人影。それは人間のような形をしていた。
 しかし、マールはすぐに、それらの相違点に目を向ける。

 見るからにザラザラとした、きめの粗い肌。指先から異様に伸びた鉤爪。知性に乏しい瞳がランプに照らされ、胡乱な光が闇夜に浮ぶ。

「この人達は……『グール』ですね」
 マールの呟きは、凰雅と視以亜に対して最低限の伝達の役割を果たし、夜闇に掻き消えた。

グール:HMHVVに感染した人間やメタヒューマンが変異を起こし発生したクリッターです。
 雌雄があり繁殖し、廃屋や地下壕等で集団生活を行い、主に人肉を喰らいます。

 その多くは精神障害を被っており、知能は高くありません。
 ただ、それでも思考能力は残っており、道具の使用、ハイテク機器の簡単な操作なら行う事が出来ます。

 また、物理空間とアストラル空間を同時に知覚出来る『二元生物』であり、生物や魔法のオーラを見る事が出来ます。

 シャドウランナー達は、敵に対して素早く目を走らせ、その概要を把握した。
 分厚いジャケットを着て拳銃を持ったグールと、ベストを着けて鉈のような刃物を持ったグール。前後から2体ずつ、合計4体。
 そしてその全員が、もう一方の手に紐を付けたビニールシートの様なものを持っている。

凰雅(舞) 成る程ね、大体分かって来たわ。こっちが、手際の悪い方の犯人ね。

マール(まなみ) あのビニールシートで死体を運んでいるんですね。

GM グールの指先は鋭い鉤爪になっていて、そのダメージは6Mです。鉈は『長さ1』の武器で、ダメージは7M。拳銃は、大型のリボルバーの様です。
 このグールは全員『素手戦闘:4』『武器戦闘:4』『小火器:3』の技能を持っており、脅威力は2です。

視以亜(玲子) 拳銃の技能が若干低いのね。最低限使い方を覚えたって所かしら。

マール(まなみ) でも、ダイス5個なら充分命中させられそうですよ。

凰雅(舞) ま、最優先で排除しなきゃね。

「装備と戦力を2等分して挟み撃ち、って所? どこでそんなの覚えたのかしらね?」
 凰雅はグール達を見据え、不敵に笑みを浮かべた。

 シャドウランナーとしての感覚が、彼女に告げる。
 このグール共は、立ち回りが巧くない。身を隠す手順も考えず、ただ食欲に追われて自分達に襲い掛かろうとしている。
 その一方で、陣形と編成だけがやけに整っていて、戦術的だ。……まるで、何者かによる入れ知恵を、大して理解もせずに実践しているかの様に。

GM なお、前方の2体は皆さんから(コロコロ)17メートル、後方の2体は(コロコロ)11メートル離れています。
 では、イニシアティブから決定して、戦闘を開始しましょう。



凰雅(舞) 早めに数を減らしたい所だし、このイニシアティブは重要ね。(コロコロ)まあまあかしら。22よ。

マール(まなみ)(コロコロ)ああ、1の目が出てしまいました。5です。

視以亜(玲子) 私はこれが最初のイニシアティブテストね。(コロコロ)9。まあまあの出だしかしら。

GM では、グール達もイニシアティブを振って。(コロコロ)位置関係とイニシアティブはこのようになります。
 前方から、銃、鉈がそれぞれグールA、グールB。後方も同じ順番でCDとします。

AB(−−−−−−17メートル−−−−−−)凰貉視(−−−11メートル−−−)CD

(凰=凰雅 貉=マール 視=視以亜 A〜D=グール)

22:凰雅
12:凰雅
9:視以亜→グールA、グールD
8:グールC
7:グールB
5:マール
2凰雅

GM フェイズ9では、反応力の高い視以亜の方が、グール達より先に動けます。
 視界は変わらず『部分光』。グール達はゆっくり近づいている所だったので、全員『歩行』状態であるとします。

凰雅(舞) 了解。フェイズ22で私からね。何からしようかしら? 4発撃てるんだから、全員に1発ずつ叩き込もうかしら。

視以亜(玲子) それが得策だと思います。倒せなくても負傷さえさせれば、グール達が反撃するときの成功数を減らせるでしょうし。

凰雅(舞) じゃあ、それで行きましょう。まずは、グールAとグールBに『アレス・プレデター』で1回ずつ射撃よ。

GM はい。中距離なので基本の目標値は5。スマートリンクで-2で部分光で+1。合計で4です。
 グールBに対しては、目標変更と反動で目標値が7になります。

凰雅(舞) 次も私の番だから、コンバットプールを全部使っても大丈夫ね。
 グールAにコンバットプール5つで(ザラザラ)5個成功。グールBに残りの4つを使って(ザラザラ)4個成功よ。

GM 条件の悪いBの方でダイス目が爆発してますね……。ではダメージ抵抗テストを。
 グールAは(ザラザラ)5個成功で軽傷。衝撃で1メートル下がります。
 次にグールBが(ザラザラ)2個成功で重傷。衝撃を堪え切れず、転倒しました。

凰雅(舞) 致命傷まで行かないわね……。なかなか頑丈じゃない。

視以亜(玲子) でも、鉈を持ったグールBが転倒したのは大きいですよ。予定通り、グールCとDにお願いします。

凰雅(舞) じゃあ、フェイズ12で、もう1回私の行動。グールCとDに射撃するわ。

マール(まなみ) グールの反撃が来ますし、今度はコンバットプールを全部使う訳にはいきませんね。

凰雅(舞) ええ、分かってるわよ。防御用に3つ残しておくわ。
 まず、グールCにコンバットプール4つ。(ザラザラ)5個成功。グールDには、2つで、(ザラザラ)2個成功。

GM グールCは(ザラザラ)うーん、出目が悪い。ですが、何とか2個成功で、重傷。
 そしてグールDは(ザラザラ)こっちも2個成功で軽傷です。2体とも、よろめいて1メートル下がります。

凰雅(舞) 結局、1体も倒せなかったわね。街中だからって遠慮しないで、ショットガンを持っておけばよかったかしら。

視以亜(玲子) こんな場所ですし、気にしなくて良かったかも知れませんね。
 さて、フェイズ9で私の番。……そうね。ここはAに2回射撃。倒せると良いんだけど。
 1回目が(ザラザラ)全部で9個振って3個成功。2回目は技能だけで(コロコロ)2個成功よ。

GM(ザラザラ)(ザラザラ)両方とも減らし切りました。ダメージはありません。

視以亜(玲子) どうやらライトピストルじゃあ役に立たなそうね……。

 重めの銃声が立て続けに4つ。少し間を空けて、軽めの銃声が2つ。
 凰雅の放った銃撃は、迫り来る化け物共を軽く押し留める程度の効果はあったが、完全に沈黙させるには至らない。
 銃弾を受けてよろめくグールに視以亜が追撃を加えるも、銃弾はジャケットの表面に虚しく弾かれ、効果を表す事は無かった。

「ちょっと、行儀良くし過ぎたかしらね……?」
 苦痛に呻き激昂しながら迫るグールを見据え、凰雅は苦々しく呟いた。
 グール共の身体は頑丈に出来ており、破壊するには思いのほか苦労を伴う。悪目立ちしない様に重火力の装備を避けたのは誤りだったかも知れない。

「オオオオオッ……!」
 上体を激しく揺らしながら駆け寄り、銃を構えるグール。ランプの光の反射が揺れて、動くシリンダーが凰雅の目に映る。
 成る程。不具合の少ないリボルバーは、知能の低いグールには確かに適しているかも知れない。銃声と共に横をすり抜けて行く銃弾を感じながら、凰雅はどうでも良い事に思考を巡らした。
 使い慣れた程度の腕で、負傷による痛みを堪えつつ激しく動きながらの不安定な姿勢の射撃。相手の動きに集中し、少し身動きして的をぶらしてやれば、避けるのは容易い。

「肉……肉ゥアアアア!」
 後方から狂気じみた絶叫を響かせ、鉈を持って突進するグール。目の前の食料を解体すべく、鈍くぎらついた凶器を振り上げる。
 激しく噴き上げる鮮血と、食欲をそそる瑞々しい肉のビジョン。だが、グールのその妄想と願望が実現する事はなかった。
「はっ……!」
 ランプを地面に落として杖を構えたマールの、鋭い掛け声を伴う突き。リーチの長い反撃に接近を阻まれ、鉈は無為に空を切り裂く。

 その向こう側から聴こえる銃声と、あらぬ場所で跳ねる火線。
 鉈を持ったグールが愚かにも射線を塞いでしまった為に、後ろで銃を構えるグールは的外れな射撃しか出来ず、何も成し得なかったのだった。

GM グールの攻撃は全部外れてしまいましたね。さて、グールBは起き上がり駆け寄って行動終了。次はフェイズ5のマールですが。

マール(まなみ) 魔法でグールを倒すとして、誰にしたら良いでしょうか……。

凰雅(舞) どうせだし、今戦ってるそのグールを倒したら?

マール(まなみ) では、グールDに《魔力破》をフォース5で。マジックプールを3使います。(ザラザラ)2個成功です。

GM では抵抗テストを。(コロコロ)失敗……という事は、致命傷を負って倒れますね。

 グールの振りかざす鉈の斬撃を、杖による突きで阻んだマール。その打撃はあまりにささやかで、到底グールを退け得るものではない。
 だが、マールにとってはそれで充分であった。グールが体勢を立て直し、更なる斬撃を加えようと身じろぎしたときには、既にマールは行動を済ませている。

 グールは、杖を握るマールの拳から、極彩色の渦が発生し、自らに迫る様を見た。
 それが、アストラル空間から襲い掛かる殺意のオーラである事を本能的に察知したその瞬間。
「ギィィオアアアアアア!!」
 グールは全身に裂傷を負い、苦悶の絶叫を発した。血を噴き出し、鉈を取り落して倒れ伏す。
 物理空間とアストラル空間に同時に存在し知覚する能力を持つがゆえに、グールは自らを殺傷する呪文を目の当たりにし、余分に恐怖した上で絶命した。

マール(まなみ) ドレインは(ザラザラ)ありません。何とか1体倒せましたね。

凰雅(舞) よくやったわ。あとは任せておきなさい。
 フェイズ2の私の行動。グールAに2回射撃するわ。次のターンでまた私が動くし、大体片付く筈よ。

GM まさしくその通り……。まあ、これまでですかねえ。
 グールAは近距離まで接近してますが、走行中ですので、目標値5ですね。2回目は反動で目標値6です。

凰雅(舞)(ザラザラ)4個成功と、(ザラザラ)2個成功。

GM(ザラザラ)重傷で、(ザラザラ)微傷。元の軽傷と合わせて、ちょうど致命傷に達しました。グールAは倒れます。

凰雅(舞) 近距離で障害物も無いなら楽勝かと思ったんだけど、結局ギリギリだったわね。

視以亜(玲子) 視界や相手の動きもありますし、細かい修正がじわじわ効いて来てる感じがしますね。

GM では次のターン。イニシアティブを決めて下さい。

24:凰雅
14:凰雅
11:視以亜
10:グールC
9:マール
7:グールB
4:凰雅
1:視以亜

凰雅(舞) 良いじゃない。グールBを魔法で倒す事にすれば、グールCに気兼ねなく射撃出来るわね。

マール(まなみ) その事なんですが……。グールCが倒せた場合、ちょっとやってみたい事があって。
 ええっと……(ルールブックをパラパラ)これなんですけど。

凰雅(舞)(ルールブックを見る)……へえ、良いわね。

視以亜(玲子)(ルールブックを見る)名案ね。一気に解決出来るかも知れないわ。

GM(ページに目を向ける)……成る程。やろうとしている事は分かりました。
 成功すれば、目論み通りに事が進むと思いますよ。

マール(まなみ) そう言って頂けると安心です。思い違いで無駄な提案をしてないか心配でしたし。

GM では、先に凰雅の行動から。グールCを撃つんですよね?
 グールCは静止状態で射撃していましたので、中距離、部分光で目標値3ですね。射撃テストをどうぞ。

凰雅 狙いを付けて目標値2ね。1撃で(ザラザラ)10個成功。やっとまともな成功数が出たわね。

GM ううむ。距離を詰めてでも、走っている方が安全か……。(ザラザラ)5個成功で、致命傷を負いました。

凰雅(舞) あと1体ね。じゃあ、『行動を遅らせる』わ。どんな結果になるか、見ものね。

視以亜(玲子) 私も『行動を遅らせる』。任せたわよ。

マール(まなみ) は、はい。では、フェイズ9で私の行動ですね。……行きます!

 銃声が響き、グールの身体が跳ね飛んで地面に叩き付けられる。凰雅の銃撃が3体目のグールを屠った事を、マールは確認した。
 ここで魔法を唱え、生き残っている最後のグールを殺害する事は容易い。しかし、それでは何も残らない。
「今です! 力を貸して下さい」
 マールが発したのは呪文ではない。単純な呼び掛けの言葉だった。

「何、ダ……!」
 グールは、物陰から現れたものの姿に目を向け、驚愕した。
 ガラクタの山が動き、こちらに迫っている。
 グールの感覚は、それが生命あるもののオーラを纏っている事、そして、極彩色の光の渦を収束させ、こちらに攻撃を仕掛けている事まで認識していた。

マール(まなみ) 待たせておいた都市精霊に、『恐怖(フィアー)』のパワーを使って貰います。
 フォースは5なので、ダイスを5個振って、(コロコロ)2、2、5、7、9です。

GM ええと、グールの意志力は5なので、3個成功ですね。
 グールの抵抗は(コロコロ)1個成功。2個上回ったので……グールは激しい恐怖に襲われます。

 都市精霊のパワーが、グールの精神を激しく揺さぶった。
 建造物の群れ、道路や路地、生態系。人の集まり築き上げた構造。その広大で複雑怪奇な概念が、グールを押し潰さんばかりに、圧倒する。
「アア……アアアア……!」
 グールは絶叫した。
 自分が見も知らない場所に放り出され、どこへもいられなくなる予感。

 自分が確実に知る場所。自分がいる場所へ。一刻も早く!

 恐怖から逃れる為、グールは敵に背を向けて駆け出した。

GM では、グールは恐怖におびえながら、一目散に去って行きます。

マール(まなみ)『アストラル投射』をして、グールを追います! これでグールの居所を掴む事が出来れば、何かが分かるかも……。

視以亜(玲子) じゃあ、「車に乗せておくわよ!」と言いながら、マールの身体を支えて、そのまま運んでおくわね。

凰雅(舞) 今の所、思った通りの流れになったわね。
 すぐに動ける様にバイクの場所まで戻って、警戒しながら帰りを待つとしましょうか。

GM では、グールを追跡して、居所を突き止めるテストですが……。
 物理空間での道順を覚えておかないと後で困りますし、『二元生物』であるグールに見付からない様に追わなければなりませんので、少し難しいですね。
 目標値6で、知力のテストをお願いします。

マール(まなみ) 知力5で目標値6ですか。失敗したらカルマプールを使いますけど……。(コロコロ)良かった。1個成功です。

GM では、マールの追跡に気付く事無く、グールはとある建物に逃げ込みます。マールはここまでの道順もしっかりと把握しました。

グール(まなみ) 中の様子は……。いえ、グールからは私が見えるんですよね。
 ここは時間が惜しい場面です。すぐに戻って、みんなで追いましょう。

GM 了解。アストラル体の高速移動なら、元の場所に戻るのはすぐです。
 マールは伝言通り、視以亜の車の助手席に横たわっている自分の身体に戻りました。

視以亜(玲子) ポケットセクレタリーに、この付近の地図を呼び出しておくわ。
 こんな地域じゃ地図も最近じゃないでしょうけど、道路と建物の位置はそんなに変わらないでしょ。

GM では、ここからグールの逃げ込んだ場所に踏み込んで襲撃戦、となる訳ですが。
 ちょっと冗長な展開で長くなってしまいました。ここでこのセッションは一旦終了として、続きは次回セッションとして再開しましょう。

凰雅(舞) 相変わらず変な所で切るわねー。

GM それに関しては本当に申し訳ない。今までで情報は粗方出揃いましたし、後はスムーズに行くはずです。



 では、ここまでの段階でのカルマをお渡ししましょう。生存、調査、グールとの戦闘で、まず皆さんは合計で3点のカルマを得ます。
 そして、いち早くグール全員に傷を負わせて戦況を有利にした凰雅に1点。精霊のパワーを使ってグールの居所を突き止めたマールに1点。
 最後に、今回のセッションに参加して調査の主導をした視以亜には2点のカルマを差し上げます。

 流石に、グールを追跡する途中でいきなり強くなるのはねえ。次回まで温存させて貰うわ。

 ははは。お気遣い有難うございます。能力値や、活用していた技能辺りだったら、別に構いませんが。

まなみ 舞さんの凰雅はこれでカルマプールが3になって、同じテストを2回振り直す事が出来る様になるんですね。

 そう言えばそうなるのね。まあ、サクッと成功するのが一番だけれど。

 さて、前回まではほぼ戦闘だけのセッションでしたが、今回からは世界観や設定を解説しつつ、調査パートも入れながらのセッションとなりました。
 色々な事を詰め込もうとして結果的に長くなってしまい中途半端になってしまったのは、こちらの反省点です。

 ヤクザコンビニの所為でしょ。長くなったのは。

 ははは。まあ確かに。シャドウラン世界にありそうな合成の飲食物を考えるのは楽しくて、ついつい。
 あとは、グールとの戦闘も思いの外時間が掛かりましたね。一瞬で蹴散らされる雑魚戦になるかとも思っていたんですが。

玲子 ピストルで戦ったからっていうのもあるけど、普通に頑丈で倒し切れなかったわね。
 1体ずつ倒していたら、手間取って誰かダメージを受けていたと思うわ。

まなみ ダメージ抵抗テストの目が良かったのもありますけど、アーマージャケットやアーマーベストを着ていたのが主な要因でしょうか。
 グールとの戦闘は、何だか新鮮な感じがしました。ファンタジーだと、モンスターがピストルを撃って来る事なんてなかなかありませんし。

 都会の中にもクリッターが潜んでいて、銃火器やハイテク機器を使って襲って来る事もある。
 そういうのも、シャドウランの面白味だと思ったので。グールはこのシナリオで是非出したかったんですよ。

 それなら、これから出て来るはずのヴァンパイアにも期待出来るわね。

 期待に応えられる様に努めます。では、ここで一旦締めさせて頂きます。お疲れ様でした。

第4話準備編<<戻る>>第5話準備編











inserted by FC2 system